わたしはトムキャット・くつろぎと学び1話
いつものお店、古びた喫茶店。瞳が今いるここは大阪河内のど真ん中、八尾市にある八尾空港。(注:写真は千歳基地です。)
空港といっても本来ここは、陸上自衛隊の駐屯地である。輸送を任務とする部隊で、ヘリコプターを主装備とする。自衛隊基地特有の格納庫やレーダー設備、その他の多くのアンテナ類などがその存在を示している。
その他、消防、警察の航空隊もこの空港に配備されている。
そしてこの空港は、多くの民間の小型航空機とも共用していて、それら総数180機の航空機が常駐しており、最近その中には小型のビジネスジェット機もいるということである。
特徴的な交差滑走路を備えてはいるが、現在もっぱら使用されているのは、滑走路27(ほぼ真西向き)1本で離着陸が行われている。
これは、海側・大阪湾に向けての離発着となるが、生駒山系からの吹きおろしなどを考えると、追い風になり、あまり天候によってはよろしくない。まあ、付近には学校や住宅が密集しておりいろいろ事情があるのだろう。
瞳が今いる喫茶店は、この八尾空港の民間エリアにある。
古びたモルタル外観の昭和の雰囲気で、内部も壁も天井も年期がはいっている。
店に入ると、コーヒーの香りというより、カレーやらスパゲティ、チャーハンやらの香りがごっちゃといった感じで、昔ながらの食堂といった方がしっくりくる。
メニューには、昔ながらのクリームソーダにフルーツパフェ、プリンアラモードなどもあって味もなかなかのものである。
お隣の自衛隊からも、勤務時間外に隊員たちがわざわざやってくるのも日常である。
まあ、それもここのオーナー店主が、元航空自衛隊の戦闘機パイロットだったというのもあるのだが。
「しかしまあ、瞳。よくトムキャットでここに降りたもんだな。」
「ああ、この前の任務のときね。あれ、本当に怖かったけど。大丈夫だというのは分かってたのよ。」
「この空港、runway27は一応1500m近くあるからね。トムキャットは700mで止まれるはずだというのはあったし、それにあの日は大荒れで海からの向かい風もあったから。」
「いや、違うよ。あの音。よくもまあ。あんなデカい音でこんなところに降りたもんだ。」
「でも、だれも気付かなかったでしょ。」
「そうだな。まったくうまくやったもんだ。雷の音に聞こえたな。一応。」
「えへへ、マスターに褒めてもらえた。嬉しい!」
「でもお前さん。この空港規則違反だぞ。重量オーバーもいいとこだ。」
「まあね。でも目いっぱい軽くしたんだよ。20t少しくらいまではね。」
「それでも、制限重量の3倍以上だ。」
「任務だからね。しょうがない。目つぶってよ。」
黒羽瞳二等空尉、いや今は黒羽瞳中尉は、3年前の任務で米軍の艦載機F14Dスーパートムキャットで、この八尾空港に密かに降り立ったのだ。
瞳はその後、任務の後遺症で一時期酷い抑うつ症を発症してしまった。
一時は除隊も考えたが、上官に止められて3年間の休職扱いとなった。これは、自衛隊では異例のことだ。
実質は、特殊勤務として勤務継続の形をとっている。
実際、義務付けられた定期的な飛行訓練は何とかこなすことはできた。むしろ、飛ぶことで救われてたのかもしれない。
そして、この店。この八尾空港内にあるこの古びた喫茶店には度々訪れることができた。
ここのマスターと話をすると、心が落ち着いた。
マスターは、元航空自衛隊パイロット。マルヨンことF104を経て、F4EJファントムⅡを駆って大空を駆け巡った勇者だ。
つづく


